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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)31号 判決 1985年6月26日

京都府綴喜郡田辺町大住ヶ丘三丁目一五番一六号

原告

伊藤哲夫

右訴訟代理人弁理士

丸山敏之

丸山喜三造

丸山信子

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 志賀学

右指定代理人

町田悦夫

海老澤良輔

東野好孝

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告は、「特許庁が昭和五二年審判第一〇〇二一号事件について昭和五八年一〇月一七日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

二  被告は、主文同旨の判決を求めた。

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五〇年五月二二日、名称を「麺質向上茹上法」とする発明(以下、「本願発明」という。)について特許出願をした(同年特許願第六一七一四号)ところ、昭和五二年四月三〇日に拒絶査定を受けたので、これに対し審判の請求をした。特許庁がこれを同年審判第一〇〇二一号事件として審理中、本願は昭和五六年一一月二四日に特許出願公告された(同年特許出願公告第四九五三八号)が、特許異議の申立があり、特許庁は、昭和五八年一〇月一七日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年一二月二二日、原告に送達された。

二  本願発明の特許請求の範囲

加圧釜の熱湯中へ生麺を投入して気密に施蓋し加圧釜の加熱を継続して適当な茹上時間加圧しつつ麺を茹上げる茹上げ工程と、加熱を止め所定時間放置して加圧釜の加圧高温熱湯中で麺を蒸す蒸し工程と、加圧釜の蓋の上面から冷し加圧釜内部の蒸気層を凝縮させ減圧する減圧工程と、蓋を開き加圧釜から茹麺を取り出し水洗する取出工程とを一連に実施して麺を茹上げることを特徴とする麺質向上茹上法。

三  審決の理由の要点

1  本願発明の要旨は、前項の特許請求の範囲に記載されたとおりである。

2  これに対し、昭和四八年特許願第一三六一九六号(昭和四八年一二月七日出願、昭和五〇年七月一五日出願公開。)の願書に最初に添付した明細書(特開昭五〇一八八二五九号公報と同じ。以下「引用例」という。)には、生麺を茹水と共に密閉容器内に収容して密閉し一一五度Cないし一三五度Cに加熱し、内部温度が所要の温度に達した時点で自動的に加熱を中断又は極微少火力に落して所要時間放置した後、その茹水と茹麺とを密閉容器内又は排出パイプ内において強制冷却した上取り出す茹麺の製造法について記載があり(前記特開公報一頁左下欄末一一ないし六行)、また、「通常の方法で切り出された幅三mm厚さ二mm(普通サイズ)の生麺線を沸騰した密閉容器中に投入し、投入バルバを閉め加熱を開始する。加熱を五分間継続し、内部温度が一二三度Cに到達した時自動的に熱源を遮断し、以後七分間放置した後密閉容器を外周より水をかけて冷却減圧し、蓋を開けて茹麺をとり出す。」(同四頁右上欄八ないし一四行)という記載があることが認められる。

3  本願発明と引用例の茹麺の製造法とを対比すると、両者は、加圧釜の熱湯中へ生麺を投入して気密に施蓋し加圧釜の加熱を継続して適当な茹上時間加圧しつつ麺を茹上げる茹上げ工程と、加熱を止め所定時間放置して加圧釜の加圧高温熱湯中で麺を蒸す蒸し工程と、加圧釜内部の蒸気層を凝縮させ減圧する減圧工程と、蓋を開き加圧釜から茹麺を取り出す工程とを一連に実施して麺を茹上げることを特徴とする麺質向上茹上法において一致し、次の二点において一応の相違があるものとみられる。

(一) 加熱された加圧釜を冷やすことによる減圧工程において、前者が加圧釜の蓋の上面から冷すのに対して、後者ではこの工程が必ずしも明瞭でない点

(二) 前者が加圧釜から茹麺を取り出し水洗するのに対して、後者にはこれについて記載かない点

4  右(一)の点について、引用例には、密閉容器への加熱を継続して内部温度が一二三度Cに到達した時熱源を遮断し、以後七分間放置した後密閉容器を外周より水をかけて冷却減圧する旨の記載がある。他方、本願明細書の発明の詳細な説明には「麺の蒸しが終了したころ、加圧釜の上部あるいは蓋の上面ヘシヤワー等により冷水をかけ」との記載がある(本願特許公報二欄二六・二七行)ので、両者は加圧釜の冷却手段として具体的にはともに冷水をかける方法をとるものであるところ、引用例には前記のように加熱された加圧釜を外周より水をかけて冷却減圧する旨の記載があり、またいうまでもなく水をかけるとあれば物を上から水を浴びせかけるものであり、これらのことからすれは、引用例における冷却減圧の際にも本願発明の場合と同様に加圧釜の蓋の上面から冷やしているものとみられ、この点については、実質的な相違ということができない。

右(二)の点について、一般に茹釜から茹上げた茹麺を取り出して水洗する工程は茹麺製造において通常行われる方法であるので、このことについては、引用例に格別記載がなくても実質的な相違点であるということができない。

以上のことからみて、本願発明は、引用例に記載された発明と実質的に同一であると認められる。

5  しかも、本願の発明者が引用例の発明者と同一の者であるとも、また、本願出願時において本願の出願人が引用例の出願の出願人と同一の者であるとも認められない。

6  よつて、本願発明は、特許法二九条の二により特許を受けることができない。

四  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点1、2は認める。3の一致点の認定は、「加圧釜を冷して加圧釜内部の蒸気層を凝縮させ減圧する減圧工程と、蓋を開き加圧釜から茹麺を取り出す工程」の部分を除き認める。相違点の認定は認める。4は争う。5は認める。6は争う。

審決は、本願発明と引用例とが減圧工程及び取出工程において相違するにかかわらず、これを看過し、同一と判断したもので違法であり、取消を免れない。

1  減圧工程の相違点の看過(取消事由(1))

審決は、引用例に「外周より水をかけて冷却減圧し」と記載されていることを根拠として「いうまでもなく水をかけるとあれば物の上から水を浴びせかけるものであり、これらのことからすれば引用例における冷却減圧の際にも本願発明の場合と同様に加圧釜の上面から冷やしているものとみられる」(審決の理由の要点4)と認定しているが、引用例には密閉容器の蓋上面に水を浴びせることは記載されておらず、これを示唆する記載はない。審決の右引用箇所は引用例の実施例一であるが、実施例一は引用例の図面第一図の装置を使用して実施する場合を説明しているから、密閉容器は外水套(2)に供給された冷却水によつて側面が冷却され、蓋上面は冷却しないと考えられる。すなわち、引用例のものは、密閉容器の壁面を介し容器中の熱水を冷却する結果として蒸気層が凝縮すると解される。引用例の特許請求の範囲に「茹水と茹麺とを密閉容器内……において強制冷却した上取り出す」と記載されているのは、右の内容を意味するものである。また、右の「茹水と茹麺とを……強制冷却」するとは、自然冷却を待つのではなく、冷却水を茹麺及び茹水の両方に直接又は間接に接触させて積極的に冷却することである。

したがつて、本願発明と引用例の発明には、減圧工程につき、次のように多くの相違がある。

(一) 冷却の仕方

本願発明では、加圧釜の蓋上面から蒸気層を冷却するのに対し、引用例の発明では、密閉容器の周囲側面から茹水を冷却する。

(二) 減圧速度

本願発明の実施において、蒸し工程を終えた段階では加圧釜の内部は加圧高温の熱湯と蒸気層の共存状態にある。次に、蓋の上面から冷却して加圧釜内部の蒸気層を凝縮させ減圧する減圧工程を実施したとき、加圧釜内部の蒸気層は、その下部の境界は高熱源(熱湯)に接し、上部の境界は低熱源(蓋)に接している。この場合、加圧釜への加熱は止められているから、冷却によつて凝縮する蒸気量と等しいだけの蒸気発生を熱湯が起すことはできない。もし蓋の上面からの冷却を極めて緩慢に行えば、冷却によつて凝縮する蒸気量に等しいだけの蒸気発生を熱湯が起すであろうが、本願発明では、蓋の上面に多量の散水を行なつて急速に冷却させるから、蒸気は瞬時に冷却し、一方熱湯中の溶存ガスは過飽和状態を経てガス化するのに時間を要し、この関係から減圧が実現されるのである。

このように、本願発明では、蒸気層は凝縮して蒸気から水に状態を変えるだけであるから急速に減圧する。

これに対し、引用例の発明では、茹水が冷却しない限り蒸気層は凝縮せず、茹水の全量を冷却するには多量の冷却水を必要とし冷却に時間がかかり、減圧に長時間を要する。

(三) 減圧時の茹水

本願発明では、茹水を冷却しないから茹水は高温のままであり、蒸気層の減圧によつて沸騰を起こして蒸気が発生するのに対し、引用例の発明では、茹水は冷却され低温化しているから、蒸気層が減圧されても沸騰しない。

(四) 効果

以上のような減圧工程の相違から、本願発明では、茹水が熱を失わないから再度生麺を投入し湯が沸騰するまでの加熱時間が短かく、茹麺作業を迅速に行うことができ、限られた時間内に行える茹回数が多く、燃料を節減できる効果がある。これに対し、引用例の発明では、茹水を茹麺の都度冷却状態から加熱し始めなければならず、したがつて、加熱時間は長く茹麺作業が遅れ、茹回数が少なくなり、燃料及び冷却水を多量に消費するという欠点が生ずる。

以上のとおり、本願発明と引用例の発明との間には減圧工程につき多くの重大な相違点があるのに、審決はこれを看過した違法がある。

2  取出工程の相違点の看過(取消事由(2))

本願発明の取出工程は、本願明細書の「加圧釜の上面を急冷開蓋し茹麺を加圧釜より素早く取り出し水洗するから」との記載(甲第二号証の二、三頁一三・一四行)から読み取ることができるとおり、加圧釜の上面を冷却した後直ちに蓋を開き素早く麺を取り出すことを要するのであつて、引用例の発明のように密閉容器の内部又は外部に水をかけて冷却するまで待ち、その後に蓋を開けて取り出す方法とは大いに異なる。

このように、本願発明の取出工程は特定の限定されたものとして理解しなければならないのに、審決が、これを引用例の方法と同じく圧力釜中の熱水が冷却するまで放置して蓋を開くものと理解し、「一般に茹釜から茹上げた茹麺を取り出して水洗する工程は茹麺製造において通常行われる方法である。」(審決の理由の要点4)と認定したのは誤りである。

審決は、本願発明の内容を誤認し、引用例の発明との相違点を看過した違法がある。

第三  請求の原因に対する認否、反論

一  請求の原因一ないし三の事実は認める。同四1、2の主張は争う。

二  審決の認定判断は正当であり、これを取り消すべき違法はない。

1  取消事由(1)について

原告が指摘する引用例の審決の引用箇所が引用例の実施例一の記載であることは認めるが、この実施例一が引用例の図面第一図の装置を使用して実施する場合を説明していることは否認する。原告の主張は、その前提においてすでに誤つている。

減圧速度についての原告主張は、本願発明と引用例の発明とがともに、密閉加圧釜中に高温高圧状態下で沸騰する水があり、この沸騰で生じた蒸気についての密閉状態下においたまま強制的に行う減圧であることを考慮していない。密閉加圧釜を密閉のまま外部から強制的に冷却する場合、蒸気の直下部に存在する強烈な高温高圧状態下の沸騰水はすぐ蒸気となるのであつて、この沸騰水の蒸気への影響を考慮しない原告の主張は失当である。

また、減圧時の茹水についての原告主張も、右と同様に、密閉加圧釜における高温高圧状態下にある水が蒸気の影響を直接に被ることを考慮していない非合理な主張である。

2  取消事由(2)について

本願発明における取出工程を原告主張のように限定して解釈すべき根拠は本願明細書中に存在しない。

第四  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、審決取消事由について判断する。

1  取消事由(1)について

右当事者間に争いのない請求の原因二の事実と成立に争いのない甲第三ないし第五号証によれば、本願発明は、従来の開放釜に代えて加圧釜を用いる麺質向上茹上法であつて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの茹上げ工程、蒸し工程、減圧工程及び取出工程を一連に実施する方法であつて、その減圧工程については、特許請求の範囲に「加圧釜の蓋の上面から冷し加圧釜内部の蒸気層を凝縮させ減圧する減圧工程」と記載されていることが認められる。そして、前掲各証拠によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、「麺の蒸しが終了したころ、加圧釜の上部あるいは蓋の上面ヘシヤワー等により冷水をかけ、或いは冷風、低温ガス等の冷却用流体を一分間ばかり吹き付け、若くは電気冷却装置を加圧釜に配備して加圧釜上部を急速に冷却する。従つて加圧釜内部の蒸気層は飽和し凝縮によつて減圧した大気圧に戻る。従つてその後、蓋を開き、茹麺を熱湯中からすくい上げて釜の外に取り出し、水洗するのである。」(甲第五号証本願公報二欄二六ないし三四行)、「約四分間程度経過すると蒸し工程が終了するが、この時点では加圧釜の圧力は大気圧を越えており、極めて危険であるから蓋を開く事はできない。蓋の上面に水道水を約一分間かけると加圧釜の上部は急速に冷却され内部圧力は大気圧に戻るから、安全に蓋を開く事が出来、歯応えのよい良質の麺が得られる。」(同三欄一〇ないし一七行)と記載されていること、また、この蒸し工程後の減圧については、減圧弁を用いて蒸気を放出する手段や放置して自然冷却する手段が通常行われているがいずれも欠点があり、これらの問題を解決するため本願発明では加圧釜上部を急冷して内部を急速減圧する手段を採用した旨が説明されている(同三欄一八ないし三〇行)ことが認められる。これらの事実によれば、本願発明における減圧工程は、蒸し工程終了時において大気圧を越えている加圧釜内部の圧力を強制冷却の手段によつて加圧釜内部の蒸気層を凝縮させ大気圧にまで減圧し、これによつて、加圧状態のまま蓋を開けば蒸気とともに熱湯や熱湯中の茹麺が噴出する危険を防止し、蓋を開き茹麺を取り出す取出工程を安全に行うことができるようにする効果を有することが認められる。

一方、引用例には、審決の理由の要点2に摘示された記載があることは原告の認めるところであり、成立に争いのない甲第七号証によれば引用例中には「所要の時間経過した後密閉容器内を冷却かつ減圧し、密閉容器の蓋を開放して茹上げを完了する」(同号証九欄下から四ないし二行)、「本発明は密閉容器中に熱湯と生麺とを収容した上加熱し所要の温度(圧力)に達した時、自動的に熱源を遮断し所要の時間余熱による煮熱を続けた後、密閉容器内または密閉容器外で強制冷却して取り出すことを特徴とする茹麺の製造方法である。」(同一三欄下から九ないし四行)との記載があることが認められる。これらの記載によれば、引用例の発明も加圧釜により麺を茹でてこれを蒸し、蒸し工程の後に強制冷却によつて加圧釜内部の圧力を減圧し、その後茹麺を取り出す方法である点で本願発明と同一であり、その減圧工程も強制冷却により加圧釜内部の圧力を大気圧にまで減圧し、安全に麺を取り出すことができるようにする効果を有する点で本願発明のそれと異なるところはないと認められる。

右認定の強制冷却の具体的方法につき、引用例には、一密閉容器を外周より水をかけて冷却減圧し、蓋を開けて茹麺をとり出す。」と記載されていることは前叙のとおりであり、この記載が引用例の実施例一について述べられていることは当事者間に争いがない。そして、前掲甲第七号証によれば、引用例の実施例二においては「密閉容器中に水を圧入して温度を一〇〇度Cまで下げ」ることにより減圧を行う旨、実施例三においては茹麺と茹水を密閉容器外の冷却水中に直結されたパイプに排出することにより減圧を行う旨説明されていることが認められる。これらの説明を対比すれば、右実施例一の減圧工程についての記載は、その減圧工程が実施例二及び三の減圧工程と異なり、冷却水を密閉容器内に圧入することなく、また、茹麺と茹水を密閉容器外に排出することなく、密閉容器の外部から冷却水をかける方法を説明していることが明らかである。そうとすると、その「密閉容器を外周より水をかけて」の記載は、密閉容器の蓋上面から水を浴びせることを含むことは当然であつて、原告主張のようにこれを除外している趣旨と読むことは、その文言自体、右各実施例の説明及び前叙の減圧工程の効果に照らし、到底できないことといわなければならない。

原告は、右主張の根拠として、右実施例一は引用例の図面第一図の装置を使用して実施する場合を説明していることを挙げるが、実施例一は、前示のとおり「蓋を開けて茹麺を取り出す」方法であるのに対し、前掲甲第七号証によれは、引用例の図面第一図の装置には密閉容器に茹麺を取り出すことのできる蓋は示されておらず、この装置を用いた場合茹麺の取出は密閉容器下部に設けられた排出バルブを開いて茹麺と茹水を容器外に排出することによつて行うものであることが認められ、実施例一が右の装置を用いる方法として説明されていないことは明らかである。原告の右主張はその前提においてすでに誤つているといわなければならない。その他本件全証拠によつても原告の右主張を認めることはできない。

以上のとおり、引用例には加圧釜をその外部から強制冷却して減圧する減圧工程が記載されており、それは加圧釜の蓋の上面から強制冷却して減圧する減圧工程をも開示していると認められるのであるから、本願発明の減圧工程と引用例の発明の減圧工程に実質的な相違がないとした審決の認定は相当であり、この点に原告主張の相違点の看過は認められない。

2  取消事由(2)について

前記当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲には、本願発明の取出工程について「蓋を開き加圧釜から茹麺を取り出し水洗する取出し工程」と記載されている。この記載から本願発明の取出工程を原告主張のように加圧釜の上面を冷却した後直ちに蓋を開き素早く麺を取り出すことに限定されたものと理解することができないことは明らかである。もつとも、前掲甲第三ないし第五号証によつて認められる本願明細書中に蒸し工程終了後茹麺を茹水中に長時間放置すれば「麺は熱湯中で膨潤化して食用に適さなくなる。」(前掲甲第五号証三欄二五ないし二七行)と記載されていることから認められるように、茹上つた麺を可及的速かに熱湯中から取り出すことは麺の茹上法において当然に考慮されなければならないことであるから、本願発明の取出工程を、可及的速かに茹麺を取り出す趣旨と解することはできようが、この点は引用例の麺茹上法でも同様であつて、前掲甲第七号証により引用例の記載すべてを検討しても、引用例の取出工程において右の当然に考慮すべきことをことさらに行わないことを示す記載はなく、引用例の発明の取出工程が本願発明の前叙の取出工程と異なる点は見出せない。原告の主張は失当である。

3  以上に述べたとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、審決の認定判断に違法の点は見当らない。

三  よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀧川叡一 裁判官 牧野利秋 裁判官 清野寛甫)

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